くりくりまろんのマリみてを読む日々

美冬には無かった“K”の話

とても不遇な人

ウァレンティーヌスの贈り物」で、祐巳のひたむきさと純粋さの中に自らには無い凛質を認めた鵜沢美冬は、異彩を放つ登場人物です。おそらく今後二度と登場することは無く、祥子にも昔を思い出されず、つい先日のことなのに髪型を変えただけで祐巳にも忘れられてしまうという不遇な人物でもあります。袖摺り合うも他生の縁とは言いながら、本当に袖を摺り合っただけのように思われます。
「あとがき」では鵜沢美冬福沢祐巳の文字の綴り変えであり、言わば祐巳の片割れのような面があることが暗示されています。祥子のどのような点に魅かれているのかといった点では二人はほとんど変わらないのでしょう。しかし、二人は根本的なところで僅かながら決定的に違うのだということをも示されているようです。そこでいくつか足りない点が列挙され、その中にアルファベットの”K”も含まれています。学年の差はともかくとして、福沢祐巳にはなり得なかった人として鵜沢美冬は描かれているようです。影のあるキャラクタとして、もしかすると一番不人気なのではと思われるところがあります。
ごく幼少の頃の記憶をまさぐり、淡々と掘り起こしてゆくような描写には不思議な魅力がありますね。その過去の憧れ方は今も変わらず、ずっと引き摺って悩みとなっているところは少しショッキングです。(三島由紀夫仮面の告白』の前半を連想しました。こんな連想をした人は僕だけなのでしょうか。もちろん描かれている悩みの内容は違うのですが、幼少のときの同性に対する鮮烈な記憶が題材となっているのが少しだけ似ています。)
祐巳についてはいろいろな面があり、さまざまな答えが考えられるのでしょう。しかし、“K”について一旦、一つの答えを案として出してみたいと思います。[▽この項続きます]