「特別でないただの一日」④瞳子

瞳子のウィークポイント

では瞳子の、将来補われてゆくことが予想される点はどんなところにあるのでしょうか。
この点、殿下執務室さまでは、本巻での瞳子や可南子の位置付けについて考察しつつ、

恐らく筆者の側としては「山百合会の幹部というのは、一見完全無欠でも実はウィークポイントを抱えている」というのは一貫していて、それが結局瞳子や可南子のように、ある程度祐巳を傷つけてしまうようなことをしてしまう、つまり物語の中で「欠点」を抱えてるキャラを妹候補として動かしてる背景にあるとは思われます

として、瞳子に「ウィークポイント」があるものとして捉えられています。
可南子についてはこれまではっきり示されていました。そして瞳子については、本巻で明らかになった可南子の事情を良く知りながらも「涼風さつさつ」でかすり傷にすぎないと言っていた点などに少々酷薄さが感じられます。祐巳に対する当たり方の強さも含めて偏った部分であり、ウィークポイントと言えると思います。
ここで、
瞳子には可南子と似たような、あるいはもっと強い喪失体験、もしくはそれに類似するできごとがあって耐えなければならなかった。
・その耐える努力が、可南子に対する同情心の無さや「いい子ちゃん」である(そしておそらくは「甘ちゃん」でもある)祐巳への憤りなどにつながっているのではないだろうか。
などと想像するのは容易なことです。瞳子には寂しさがあり、満たされてのほほんとしている祐巳に対して反応してしまうのだとも考えられます。
しかし、それですぐに納得してしまうのはどこか浅薄な気もします。過去のエピソードに原因を求めることで可南子の場合のように話が分かりやすくなる場合もあります。しかし、マリみてでの人物のありようはもう少し複雑に構成されていると思います。今それをほじくり返そうとするよりも、現在のありよう自体に目を向けるべきであり、背景は無理に考えなくても良い場合もあるのではないでしょうか。

弱点の表われ方・祥子の場合から

ここで祥子を再び引き合いに出すことが適切かどうかは分かりません。しかし、人物描写に最も念が入っているのは祥子であり、類推ができる部分もあると考えます。
人の弱点と魅力は表裏一体で根本が同一のものとなっている場合がありますが、祥子についてもそう言えると思います。祥子は言わば心に鎧を着込んだというべき強い「構え」のある人であり、それがあるときは「紅薔薇(の妹)」としての威厳として表われ、あるときは祐巳に対する向き合い方のまずさという形で表われていました。
ここで注目すべきは祥子は決して人に愛されなかった寂しい人ではなく、そして愛することの無い人でもないということです。水野蓉子をはじめとして十分に上級生から愛され、多少の波瀾を含んでいる家族的背景においても不遇とは言えないのでしょう。ただそこにあるのは愛するに際しての方法の不器用さ、表現の未熟さであってそれが弱点の一つであったと言えます。
弱点として最も極端に表われた「レイニーブルー」では自らに厳しい人であった、とあります。祐巳へのためを思って祐巳と、そして同時に自らに厳しくすべしと考えている節があります。特にアニメ版では「祖母に口止めされたこと」は述べられず、口に出したら泣いてしまいそうだったことが事情を言わなかった理由になっていて少し話題になったものでした。それは自らのプライドを守るといった利己的な色合いを持つものではなく、祐巳の前で崩れてはいけないのだという義務感によるものとも解することができるのではないでしょうか。
ここには自分に強くなければならないとする意思が働いています。しかし、結果的にそれは祐巳の頼りたい心を無視することにつながり、すれ違いをもたらすことになったのでした。本当は、祐巳の前で悲しんだり辛さを打ち明けたりしても良かったところ、それをしないところが一つの「構え」であるとすることができます。そして「パラソルをさして」ではその構えがやっと外れ、ただ素直に「好きよ」と言うことができたのでした。表面は冷たそうでも底の方は純粋で暖かい、というのが祐巳の祥子に対する評です。
瞳子にも何かしらの「構え」があって、魅力と同時に多少の苦渋をもたらしているのではないか。それは祥子のようなものとは趣を異にするものではありながら、甘えを許さず強くあろうとする点は共通しているように思います。またそういう無防備な顔をする、と祐巳に苦情を述べるとき、「無防備」ではいられない瞳子の構えがあるのでは、そしてどこかに憧れの気持ちもあるのではと感じます。相反する二つの気持ちが相克しているのではないかと推測します。その内面はやはり、暖かく優しいものでもあるのでしょう。[▽続きます]