「薔薇のミルフィーユ」感想①

祐巳、柏木氏に完敗。
…と、いう風合いの話です。今「紅薔薇のため息」を読み終わったのですが、僕は「真夏の一ページ」所収の「略してOK大作戦(仮)」がマリみての中でも極めて好きであり、その続編のように読めて大変楽しめました。学園から一歩飛び出した形の話の面白さというのは学内でのエピソードの積み重ねが前提にあって、その上で題材が拡張されている点にあるのではないかと思います。祥子の背景にある「家」の話というのも学園内のみではなかなか表れないものですね。
「OK大作戦」では祐巳は柏木氏に心の中で怒り、終盤では「やっぱりお姉さまの立場に…」という結論を得て納得しています。この時の祐巳の示した姿勢は確かに祥子の気持ちに最も添うものではありましたが、時々祐巳が祥子に関して示すやや偏狭な趣きのする考えには微笑を誘われます。
しかし「紅薔薇のため息」では、祐巳は「嫌い」と柏木氏に対して明言して対立する一方、柏木氏が祐巳よりずっと広い視野を持っていることを閃めかされてもはやのほほんと構えていられず、暗転しています。何が祥子にとって一番良いことなのか、理解しなければならないことがまだ沢山あるようです。祥子との狭い二者関係においては祐巳はすっかり満足しているでしょう。しかし、祐巳の妹業も到達点が遠いところにあることが示されていてなかなか大変です。「パラソルをさして」で現れた「世界が拡がる」という抽象的なテーマが、他ならぬ祥子がどういう状況にあるのかを広く見なければならないという形でより具体化し、差し迫ったものになっているとも言えます。
自分は祥子について知らない点が多かった、しかも柏木氏よりも知らなかったのが悔しいというのですが、おそらくはこれから祥子自身が知らなければならないことも共に知っていかなければならないことがあるのでしょう。
「好きにもいろいろある」というのは、第一義的には相手の立場や自分の立場というものを全体的に見なければいけないこともあるし、柏木氏はそういう世界の住人であるということを自分で説明しているのだとも言えましょう。「祥子さまがどう思っているか、とか、瞳子ちゃんのこととか、そういう余計なことを取り去れば、ただ純粋に」好きであると確信を持って言えるような純粋さを祐巳は持っています。しかしこのような祐巳のあり方と違う方向を指し示しているのが柏木氏です。祐巳にとってはこれまでお邪魔虫のような存在でしたが、成長の契機となる人物に昇格しています。…昇格というよりは顕在化したと言った方が良いかもしれませんね。そのうちに祐巳も、柏木氏に対するイメージを変えてゆくことがあるのでしょうか。瞳子に対して持っていたイメージが次第に変わっていったように。
ちなみに、祐巳と柏木氏の関係は「同志」であると柏木氏は表現しています。直接的には、祥子を支える立場にある者として、協働しうるということを示していると思われます。瞳子祐巳の関係についても同じように、瞳子祐巳に実際に会うまではそう期待していた可能性もありそうです。実際は相当違う経過になりましたが。そんな想像をすると、祐巳瞳子の関係も随分過酷な道を辿ってきたのだなという気がしてきます。柏木氏の誘いを断ったという瞳子は、「OK大作戦」でもさわやかに皆の前に姿を現し祥子のことに触れておきながらいつの間にか引っ込んでいます。やや失調を来たしているような祥子を相当気にしていたことでしょうし、心配事が大抵当たる瞳子のことですからああやっぱりと思ったかも知れません。学園内での状況からは祐巳を避けたように見えるところです。しかしただ自分の都合で避けたというより、やはり祐巳たちに任せておいた方が結局のところは良いという積極的な判断があったのかもしれず、信頼感はとうに持っているものと思われます。「OK大作戦」では少し見極める必要があったが今回はその必要も無く、祐巳たちに祥子のことを丸投げしたのだと言えましょう。

注目の柏木氏

柏木氏は《無印》では悪役風の登場のしかたであり、それ以後顔を覗かせるときは的確な行動を取ってサポート役に徹してきました。祐巳の非難する無神経さによって祐巳たちの輪の中には到底入りきれないように見える一方で、祥子からは厚い信頼を寄せられているようです。端役としてしか出てこないので分かりづらい点も多々あったのですが、今回よりはっきりと方向付けられた点もあるので改めてまとめてみたいと思います。数ヶ月前のワトソンさまのコラム《痛くもかゆくもない》で柏木氏について盛り上がっていて書き込ませていただいております。
[▽続きます]