「とりかえばや物語」②

氷室冴子ざ・ちぇんじ! (第1巻) (白泉社文庫) ざ・ちぇんじ! (第2巻) (白泉社文庫)の簡単な感想・レポートです。
・最初に呈示される興味をずっと維持したまま、物語全体を一貫して読むことができると思います。結末に至るまで事態が緩むことなく進展していき大円団を迎えるという、勢いのあるものでした。
興味というのは、大きく二つのことが挙げられると思います。
①権門に生まれながら、良く似ていてそれぞれに美貌を誇る異母姉弟は男性・女性の生活ぶりを取り替えたかのように育ってきています。しかし、父である大納言はこのことをひたかくしにし、家来のうちですら知っているのはごくわずかの者にとどまります。この状態で、宮廷社会にどう受け入れられていくのだろうか、ということが物語の軸になっています。宮廷にデビューしなければならないという、言わば社会的圧力がかかり始めるところから物語が始まっています。また、この秘密が知られることは帝を騙すことになり家の地位を脅かす危険があります。
②綺羅君(男らしい女)は、もともと今の暮らしぶりを厭わず、自ら進んでしています。この点綺羅姫(女らしい男)は対照的で、ことあるごとに失神してしまうという弱さを持ちつつも、男らしくない自らの姿を情けなく思っています。
このような自らの状態にどう折り合いを付けてゆくのか、というところに興味が引かれます。
・ 綺羅姉弟ではなくむしろ、二人に関わってくる人物の方がより執着深く見えるところが面白いと思います。物語を進めるエネルギーとなっているのはいくつかの勘違いと、殊に男性の執着心や嫉妬心です。姉弟はそれぞれの立場に困惑しつつも思いやりを忘れず支え合おうとしており、あまり隠微な印象はありません。ここでは、とりかえばや物語は、姉弟愛の物語として、そして冒険譚として描かれていると言えると思います。
・ 綺羅君が将来を望まれる公達として出仕するうち親友となった宰相中将は、綺羅君が女であることを知りません。しかし、綺羅君に対する不思議な恋心を抱くようになり、思い悩みます。これは、「奇(あや)しの恋」と形容されています。そのために綺羅君の妻となって間もない、幼げの残る三の姫と通じてしまうというのは妄執とも言えます。一方、時の帝も綺羅君を大変気に入るのみならず、執着心を発揮します。綺羅君がたまたま女の姿で水浴びをしていたのに出会い、その姿と重ね合わせてしまうからですが、思い余って「綺羅君とよく似ているとされる綺羅姫」を出仕させます。
・ 一方、綺羅姫は無理に出仕させられて女東宮の世話を任せられます。女東宮は帝が皇子に恵まれないので立てられているのですが、周囲に持ち上げられる一方で敬遠されるという寂しさがあり、我儘さが身についてしまっています。しかし綺羅姫は扱いがうまく、交流ができてくるのは微笑ましいところです。
・ 危難を乗り越えつつ、結果的に二人は姿を変えてすり替わり、周囲の者を欺くことに成功します。綺羅君は入内して帝と結ばれ、綺羅姫は女東宮と結ばれます。また、遊び人でもあった宰相中将は身を慎み、三の姫を正式に娶ることにします。
・ 敢えて纏めるならば、事件によって揉まれながら、それぞれが今まであまり表れていなかった男性性、女性性に目覚めてゆくというものでした。その変容ぶりについては、「恋は人を変えるものです」という簡にしてユーモアの含まれた言葉で作中の人物が説明しています。これは、入れ替わった際のいくらかの齟齬を周囲に対してごまかそうとしたものです。しかし同時に、綺羅姉弟に起きた真実をさすものでもあります。
読後感は爽やかですが、それは綺羅姉弟の真摯さ、純粋さが物語の全体を通して伺われるからなのでしょう。[▽この項終わりです]